大黒湯(足立区千住寿)が本日6月30日、90年の歴史に幕を閉じる。
ファンの間で「キング・オブ・銭湯」と称されている同湯。1945(昭和20)年に創業して以来、宮造りの木造建築を維持してきた。屋根の正面部の三角部分の破風(はふ)は、城や寺院に多くみられる造り。上段に大きな三角の格子が入った千鳥破風、下段はゆるくカーブした唐破風の2段重ねの構えとなっている。その下の飾りである、懸魚(けんぎょ)には鳳凰(ほうおう)が彫られている。大黒天、恵比寿天の彫刻もあり、神社仏閣さながらの造りが特徴。
6月第3日曜の19日。ソーシャルディスタンスを保ちながら並び、15時の開店を待つ古くからの常連客や銭湯ファンの姿が多く見られた。
入り口には「わ」と書かれた板が掲げられ「わ」「いた」でお湯が沸いた、板の裏面は「ぬ」が書かれており「ぬ」「いた」で閉店中、建物正面部に飾られた弓は弓射る「湯入る」という江戸っ子の粋な言葉遊びが見られる。
中へ入ると、木で作られた松竹錠の靴箱が迎える。脱衣場の高い天井は格天井で、それぞれの升に季節の花の絵が描かれている。浴場は高さ6メートル以上あるブルーの天井が特徴。中央の仕切りで男湯と女湯に分けられ、男湯は青い富士山、女湯は赤富士の壁画が描かれる。
浴槽とジェット浴槽には日替わりでハーブが入り、この日はレモンバーム。外には露天風呂があり、客は譲り合いながら風に当たり入浴を楽しむ。入浴後には、コイが泳ぐ庭園を眺めることができる畳スペースと、大人数が腰掛けられるソファがある。父の日で、家族で初めて来たという男児は「建物がめっちゃかっこいい。絵もきれい。お風呂は熱かったけど、魚を見ながらコーヒー牛乳が飲めておいしかった」と笑顔で話していた。
区内に都電が走っていたころから同湯に通い続けているという女性常連客は「寂しくなる。ここに来てからずっと来てるんだから…。これからは他のところに通わなくちゃ」と胸の内を明かす。
閉店後の建物をどうするかは未定だが、「残してほしい」「カフェにしてほしい」などの声が上がっているという。足立区浴場組合は公式ツイッターで「『お別れ入浴』は長居せず短時間で。営業時間外の問い合わせ、来場も控えてほしい」と呼び掛けている。
営業時間は15~23時(最終入場23時30分)。月曜定休。料金は、大人=460円、中・高校生=300円、小学生=180円、小学生未満=80円。